2019年度Sセメスター運営紹介#4

最終更新: 2月2日

この度は、「障害者のリアルに迫る」東大ゼミに興味を持ってくださり、本当にありがとうございます。

初めまして、東京大学文科三類2年の大村美葵です。

2018年度秋学期に「障害者のリアルに迫る」東大ゼミを受講し、この4月から始まった2019年度夏学期より、ゼミ運営メンバーに加わらせていただきました。




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このゼミを知ったきっかけは、大学1年の夏季休暇が終わり、秋学期のシラバスをめくりながら履修を考えていた時、リアルゼミが紹介されているページがふと目にとまったことです。リアルゼミは、2019年度夏学期には自主ゼミとして開講されますが、2018年度秋学期には主題科目として開講されていたため、シラバスに掲載されていました。


もともと抱いていた、「障害」というテーマへのぼんやりとした関心から受講を決めたリアルゼミでしたが、当初は運営に携わりたいとは全く思っていませんでした。

そんな私が運営に加わりたいと思うようになったきっかけはなんだったのか。「障害」をタブー視せずに話し合う雰囲気に惹かれたのももちろんですが、私は、このゼミで東小雪さんのお話を聞き、その後の懇親会で東さんと話し合う機会をいただいたことが大きかったように思います。


リアルゼミでは、障害者手帳を持っている方々だけでなく、鬱や摂食障害などに代表される精神疾患、セクシャルマイノリティーといった、なんらかの形で生きづらさを抱えている方々すべてを対象としています。

元タカラジェンヌでもある東さんは、東京ディズニーシーで初の同性結婚式を挙げ、日本初の同性パートナーシップ証明書を取得したことで、メディアでも大きく取り上げられました。私も、実際に東さんとお会いするまでは、LGBTアクティビストとしてのイメージが強かったです。しかし、リアルゼミにいらっしゃった東さんは、LGBTアクティビストとしてのお話よりも、性虐待被害者としてのお話に時間を割いた講義をしてくださいました。私はその講義の中で、



大人になってカウンセリングを受け、カウンセラーから指摘されるまで、自分は実父から性虐待を受けていたのだという意識を全く抱いていなかった。



との東さんのお言葉に衝撃を受けました。思い出したくもない悲惨な経験が、なぜ、被害を受けたという意識に結びつかなかったのか。モヤモヤしたまま講義は終わってしまったのですが、東さんも交えたその後の懇親会で、そのモヤモヤは少しずつ晴れていきました。決して東さんほどの悲惨な経験ではありませんが、皆さんと話し合う中で、私自身の幼い頃の経験を思い返したからです。


私は虐待などとは程遠い家庭で育ちました。こうして大学に通わせてもらっているし、恵まれた家庭環境だと思っています。ごく平凡な私の家庭が、周囲の家庭と違っていた点を挙げるならば、それは、私が幼い頃に父が鬱を患ったことです。


鬱の症状は個人差が大きいものです。以下、私の父に起こった症状についての記述が続きますが、あくまで、私の父に起きた症状として捉えてください。以下に記す症状が、他の方々にもそのまま当てはまるようなことは決してありません。


父は、私が2歳の頃に鬱を発症しました。原因は、職場で与えられる業務が多くなるにつれうまく消化できなくなっていったこと、それを残業で無理に消化しようとしたことのようです。残業漬けの日々を過ごすにつれ、父は、私の母にも職場の方々にもその異変がはっきりとみて取れるほど、様子がおかしくなっていきました。


一日中、仕事のことしか考えられない。

食べることが大好きな人のはずなのに、無表情でぼーっとしながらご飯を食べている。ご飯の方を見ようともしない。母に言わせれば、「エサを食べているようだった」そうです。

夜、全く寝られない。眠くて眠くてたまらないのに、寝られない。「寝させてくれー!」と、深夜に突然騒ぐこともあったそうです。

職場では、デスクに向かったまま、手が動かない。頭がフリーズしているようで、全く仕事が進められない。上司に「休め」「休暇を取れ」と言われても、「そんなことをしたら、仕事が進まなくなって大変なことになります」と、頑なに拒否する。既に、仕事は全く進まない状態にありました。


自分は鬱であるということを父が自覚した、正確に言えば、無理やり自覚させられたのは、上司が父を無理やり病院に連れていった時だそうです。母は、診察室の外から、診察を受ける父をドア越しに見ていたそうですが、鬱であると言われた瞬間、父はさめざめと泣いたそうです。母にとっても、トラウマに近いショックな出来事だったと思われます。私は現在に至るまで、父が泣いているのをまだ見たことがありません。


私は幼かったので、当時、父が鬱を発症したことは全く知りませんでした。ただ、私に対する父の態度の変化は、当時の私もはっきりと感じ取っていました。

あんなに私を溺愛していた、私がどんないたずらや悪さをしてもほとんど怒らなかった父は、私が何をしても、何もしなくても、いつも機嫌の悪い父に変わってしまいました。少し騒ぐと「うるさい、静かにしろ」と怒られる。遊んでいるときに誤って父にぶつかると舌打ちされる。一回も父に怒られずに済む日はありませんでした。いつも機嫌が悪いかと思いきや、妙に機嫌がよく、ハイテンションで話しかけてくることも時折ありました。当時の私には、どうすれば父を怒らせずに済むのか、どのように父と接すればよいのか、よくわかりませんでした。父の顔色を伺う癖がつきました。


そのうち、私は、父の態度が豹変した理由を自分なりに考えるようになりました。父の態度が変わった時期が、たまたま弟が産まれた後だったという事実から、当時3歳の私が考え出した、本当に拙い考えです。



お父さんは、弟が産まれて私がお姉ちゃんになったから、私に厳しくなったんだ。私はもう一人っ子じゃなくて、しっかりしたお姉ちゃんにならなきゃいけないから、私を厳しくしつけるようになったんだ。



お恥ずかしい話ですが、私は、父は鬱だったのだと母から明かされた小学3年生の頃まで、この拙い考えを信じていました。本気でこう思っていました。


東さんを交えた懇親会で私が気づいたのは、この3歳児の考えは、私に辛くあたる父を全く責めず、私の側に非があるかのように捉えたものであることです。私は、鬱という精神疾患を、小学校1年生の頃からテレビ番組を通じて知っていました。それにも関わらず、父は鬱なのではないかと疑ったことは一度もありませんでしたし、3歳児が考え出した拙い理屈を疑ったこともありませんでした。


経験の内容や、その深刻さの度合いは全く異なりますが、

虐待や鬱への知識を持ってからも、自分や自分の周囲がそれらに該当するとは思いもせず、なんとなく自分を責めるような意識を持ち続けていたという点において、東さんと私は共通しています。


そのことに気づいた時、私は、今までしっかりと向き合うことをしてこなかった「生きづらさ」という問題について、自分について、とことん向き合ってみたくなりました。自分にとことん向き合うために、さまざまな人に出会って、彼らの語りを聞いて、一緒に話し合って、一緒に考えてみたくなりました。他者の「生きづらさ」と向き合うことは、すなわち、自分の「生きづらさ」と向き合うことでもあると思うからです。

自分というものについてもっと考えたいという思いが、リアルゼミの運営に携わりたいと思った主な動機であり、今の私を支えるモチベーションです。


運営メンバーに加わり2ヶ月が経ちましたが、周囲のメンバーに比べ、「障害」「生きづらさ」といったテーマに対し、いかに自分が真剣に向き合ってこなかったかを痛感させられています。お会いしたい方がたくさんいらっしゃいます。読まなきゃと思っている本がたくさんあります。研修にも参加したいです。

これから、どんな方々に、どんな人生に、どんな考えに、どんな気づきに出会えるのか、楽しみでなりません。



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明日4/26(金)の5限(16:50~18:35)に、東京大学駒場キャンパス コミュニケーションプラザ北館2階多目的室1にて、今学期のゼミの第2回を開講します。第2回の講師は、傷害事件や薬物依存といった壮絶な人生を歩み、現在ではかつての自分と同じような境遇の人々の支援活動に尽力していらっしゃる、森川誠さんです。東大生に関わらず、他大生の方にも数多く参加していただいています。大学院生の方も大歓迎です。ぜひ、お気軽にいらしてください。運営一同、お待ちしております。


冗長で拙い文章でしたが、最後まで読んでくださりありがとうございました。運営紹介は毎週木曜日に更新します。運営メンバーのリアルゼミにかける思いを、来週以降も読んでいただけると幸いです。


大村美葵(2018年度秋学期受講/2019年度夏学期運営)

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